公共緑地における鳥獣害対策技術:被害軽減と維持管理コスト削減のための選定・実施ポイント
公共緑地における鳥獣害対策技術:被害軽減と維持管理コスト削減のための選定・実施ポイント
公共緑地は、地域住民の憩いの場であるとともに、生態系の維持や防災機能の強化など、多岐にわたる役割を担っています。しかしながら、近年、多くの地域で鳥獣による緑地への被害が増加しており、その対策は喫緊の課題となっています。鳥獣害は、植栽の食害や掘り返しによる景観悪化、施設の損傷、ひいては維持管理コストの増加に直結します。
本稿では、公共緑地における鳥獣害被害を軽減し、長期的な維持管理コストの削減に貢献するための緑化技術の選定および対策の実施ポイントについて解説します。
鳥獣害対策の基本的な考え方
鳥獣害対策は、対象となる鳥獣の種類や被害の内容、緑地の特性に応じて多角的に検討する必要があります。主な鳥獣としては、シカ、イノシシ、サル、ハクビシン、タヌキなどの哺乳類、カラス、ムクドリなどの鳥類が挙げられます。被害の種類も、植物の食害、根や土壌の掘り返し、糞尿による汚損、施設の破壊など様々です。
対策の基本は、「寄せ付けない」「侵入させない」「増やさない」「追い払う」「捕獲する」といったアプローチを組み合わせて実施することです。緑化技術の選定や配置は、これらのアプローチのうち「寄せ付けない」「侵入させない」に大きく関わります。
緑化技術による鳥獣害対策
1. 植物選定による対策
鳥獣が特定の植物を好む傾向を利用し、食害を受けにくい植物を選定することで被害を軽減できます。
- 鳥獣が好まない植物の選定: シカが食べにくいとされる種類の樹木や、苦味や芳香を持つ植物、トゲのある植物などを導入することが有効です。地域の鳥獣の食性を調査し、被害実績の少ない在来種などを優先的に検討します。ただし、地域や個体によって食性は異なる場合があるため、絶対的な効果を保証するものではありません。
- 毒性のある植物の回避: 人やペットにとって毒性のある植物は、鳥獣への影響の観点からも公共空間での使用は避けるべきです。
2. 物理的対策と緑化の連携
物理的な対策施設と緑化を組み合わせることで、鳥獣の侵入を防ぎつつ、緑地の景観や機能を損なわない対策が可能です。
- 侵入防止フェンス: 鳥獣の種類に応じた高さや目の細かさのフェンスを設置します。単なる構造物としてではなく、フェンスに沿ってツル植物を這わせたり、生垣状の植栽と組み合わせたりすることで、圧迫感を軽減し、緑地としての質を高めることができます。フェンス下部からの潜り込みや飛び越えを防ぐための工夫も重要です。
- 植栽による物理的防御: 低木を密に植栽したり、複数の種類の植物を組み合わせることで、鳥獣が内部に入り込みにくい構造を作ることも可能です。特に低木はシカなどの侵入を物理的に妨げる効果が期待できます。
3. 忌避効果のある資材・技術
一時的、あるいは補助的な対策として、鳥獣が嫌がる匂いや音、光などを利用した忌避資材や装置があります。
- 忌避剤: 特定の植物やエリアに塗布または設置することで、鳥獣を遠ざける効果が期待できます。ただし、効果の持続性や雨による流出、人への影響、周辺環境への配慮が必要です。
- その他の忌避装置: 電気柵、超音波装置、センサーライトなども対策として検討されますが、公共空間においては、安全性や周辺への影響、景観との調和を慎重に考慮する必要があります。緑化計画と併せて、設置場所や方法を検討することが求められます。
維持管理とコスト
鳥獣害対策を導入する際は、初期コストだけでなく、長期的な維持管理コストと被害軽減による効果を総合的に評価することが重要です。
- 初期導入コスト: フェンス設置や忌避植物の導入、特殊な植栽工法には初期費用が発生します。対策の規模や使用する資材によってコストは大きく変動します。複数の業者から見積もりを取り、仕様を比較検討することが一般的です。
- 維持管理コスト: 対策施設の点検・修繕、忌避剤の再設置、食害された植物の補植など、対策導入後も維持管理コストが発生します。特に物理的対策は定期的な点検が不可欠です。
- 被害軽減によるコスト削減効果: 鳥獣害による植栽の補植費用、損傷した施設の修繕費用、景観回復のための追加作業費用などが削減される効果が期待できます。長期的な視点で見ると、対策導入コストを被害額の減少で上回る場合があります。
- 効果測定と評価: 導入した対策の効果を定期的にモニタリングし、被害状況の変化や対策施設の状況を記録・評価することが重要です。これにより、対策の効果を客観的に把握し、必要に応じて見直しや改善を行うことができます。定量的なデータ(被害面積の減少率、補植費用の変化など)を収集・分析することで、対策の費用対効果をより正確に評価できます。
導入に際しての考慮事項
公共緑地における鳥獣害対策の導入にあたっては、技術的な側面に加え、様々な要素を考慮する必要があります。
- 関連法規: 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)など、鳥獣に関する法規を遵守する必要があります。特に捕獲を伴う場合は、許可申請や実施体制の整備が必要です。また、史跡や名勝など文化財に指定された場所では、文化財保護法の規制に注意が必要です。
- 地域住民との合意形成と安全確保: 対策施設の設置や対策の実施方法について、事前に地域住民への説明会等を行い、理解と協力を得ることが円滑な事業遂行のために重要です。特に電気柵などの設置にあたっては、人やペットの安全確保に対する十分な配慮が必要です。
- 入札・契約における留意点: 仕様書を作成する際は、対策の目的、対象鳥獣、想定される効果、使用する資材や工法に関する技術的な基準、維持管理に関する要求事項などを明確に記載することが重要です。鳥獣害対策の実績や専門知識を持つ業者を選定するための評価項目を設けることも有効です。
- 活用可能な補助金・助成金制度: 国や地方自治体によっては、鳥獣害対策に関する補助金や助成金制度が設けられている場合があります。これらの制度を活用することで、初期導入コストの負担を軽減できる可能性があります。関連部署や国の情報を確認することをお勧めします。
事例紹介(一般的な傾向)
多くの自治体では、緑地の特性や被害状況に応じて、複数の対策を組み合わせた総合的な鳥獣害対策に取り組んでいます。例えば、山間部に近い公園では、シカやイノシシの侵入を防ぐために物理的なフェンス設置と、それらを避ける種類の植物を選定する植栽計画を同時に進めるケースが見られます。また、市街地の公園では、カラスやハクビシン対策として、植物の剪定方法を工夫して隠れ場所を減らしたり、忌避効果のある植物を部分的に導入したりする事例があります。これらの対策の多くは、導入後の維持管理や効果検証が継続的に行われ、必要に応じて計画の見直しが行われています。コスト面では、初期投資はかかるものの、長期的に見れば被害が減少することで維持管理の手間や費用が軽減されたという報告も散見されます。
まとめ
公共緑地における鳥獣害対策は、緑地の健全な維持と多機能性の確保のために不可欠です。緑化技術の選定や物理的対策の導入にあたっては、対象となる鳥獣や被害の状況を正確に把握し、初期コスト、維持管理コスト、期待される効果を総合的に評価することが重要です。また、関連法規の遵守、地域住民との合意形成、安全確保、そして活用可能な補助金制度の情報収集も円滑な事業推進には欠かせません。
計画段階から鳥獣害対策の専門家や実績のある業者と連携し、長期的な視点での計画策定と継続的な効果検証を行うことが、被害軽減と維持管理コスト削減、ひいては魅力的な公共緑地の維持につながります。